kominasemako

未知なる桃

食べ歩き ,

66年間桃を食べてきた。
だが桃が持つ魅力の一部しか知らなかったことを、思い知らされた。
パークハイアット京都で行われたスペシャルイベント、kominasemakoのデザートコースである。
最初に出されたのは、一枚の葉だった。
嗅ぐと青い香りがする。
手のひらに取り、拠って丸めて香りを嗅いでほしいという。
丸めた葉を鼻に近づける。
ほんのりと桃が香った。
桃の葉は、蓋付きのペレットに入れ、料理とともに、時折香ってほしいという。
「桃の葉の細胞を壊し、空気に触れさせていくと、酸が出てきます。そうして香りを育てていってください」。
彼女はそう言って、微かに微笑まれた。
その後に、7皿の桃のデザートが運ばれる。
妖艶、清楚、熟した色気、清涼、初々しさ、鮮烈、ねっとりとした重み。
桃が宿していた様々な持ち味が、彼女の手によって花開いていく。
「発想の原点はなんですか?」と、聞いてみた。
「子供の頃実家で食べた記憶です。その時の感動です」。
そう即答された。
おそらく甘美な記憶を、甘美に終わらせることなく、細分化し、分析して構築するのだろう。
「では料理の最終形へは、どのような手順で考えられていくのですか?」と、尋ねてみた。
「まずあらゆる調理法と合わせる食材を、可能な限り出します。それを頭の中で組み合わせては消しを繰り返していきます。実際の調理に入っても、同じ工程を繰り返していきます。一週間ほどかかるでしょうか。その間は、悩みに悩み抜きます」。
普通は桃のこういう面を出したいと思い、料理を構築していく。
だが彼女は、その思いを持ちつつも、可能な限りの方法を試されるのだろう。
一週間と言われたが、相当な労力と精神力を要する仕事である。
そうして出来上がったデザートは、誰も出会ったことのない、孤高の美しさを持つ。
だが一方で、軽やかさもある。
7皿食べても、お腹が重くはなることはない。
「デザートだからこそ、デザートでお腹をいっぱいにさせたくは、ありません」。
そう言われた彼女は、晴れやかな顔つきをして、誰よりも凛々しかった。
kominasemakoのすべてのデザートは、タベアルキストクラブにて。