「懐かしい」。
その醤油ラーメンを一口食べた時にそう思った。
しかしその懐かしさは、いわゆる昭和の香りがするなどと言われる醤油ラーメンとはまったく違う。
日本人として体の中に流れる遠い記憶に、優しく触れたのである。
鴨ガラや丸鶏、豚足やあさり、野菜類などが入っているというスープは、鶏油の甘い香りを漂わせながら、それぞれの要素が突出することなく丸い。
複雑のようで、一つである。
そして二年間寝かせているという“かえし”の熟れた旨味を、静かに膨らましている。
中細の平打ち麺が、スープを絡めながら口元に上がってきて、歯の間で経過に弾む。
一方の塩ラーメンは、貝類の味に全粒粉の麺がからむ。
「ふうっ」。一口スープを飲んで、充足のため息を漏らす。
自家製七味もとろろ昆布も海藻もネギも、細いシナチクも、すべてに意味がある。
「ふうっ」。途中で何度も一息をついた。
普通ラーメンを食べるときは、一気呵成に食べる。
だがこのラーメンは、煮物椀を頂く時と同じように、途中で何回か余韻を楽しみたくなるのである。
こんなラーメンは、食べたことがない。
「ラーメン吉田」にて。
Sさんありがとう。
遠い記憶に触れた。
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