<駅弁勝負> 第54番    

駅弁 ,

<弁当勝負 第43回>
立って食べている。
JR大増の「北海うまいもん弁当」を、立って食べている。
推定36歳痩せ型メガネ男子である。
彼は、東京駅23番ホームの柱の陰で、弁当を立って食べていた。
やたら口を動かしてあるのは、ヘッドセットで携帯通話しながら食べているせいである。
JR大増ということはこれから東北か上越に出かけるのだろう。
それにしてもなぜ、電車に乗るまで待てないのか。
1)電車の中で弁当を食うと、酔う体質
2)一刻も早く食べたかった。
3)立ち飲み、立ち食いが好き
4)車中では別にやることがある。
5)弁当が北海だけに、寒気にさらされた風情で食べたかった。
理由はわからない。同じく理由がわからないのが、電車が動き出す前に食べ始めてしまう人である。
隣の席の方がそうだった。年齢は立ち食い人と、おそらく同じ36歳痩せ型メガネ男子である。
座るとすぐ様に、袋からミックスサンドと午後の紅茶を取り出した。
一方こちらは、崎陽軒が満を辞して出した「JR東日本発足30周年 記念弁当」1300円である。
廉価が多い崎陽軒にあっては強気な値段設定となっている。
また今日も食べる前に勝ってしまうのか。
誰か勝負に挑んでくれ、と思い弁当のふたを開ける。
いい。特製シウマイ。シウマイ。エビシウマイのシウマイ三兄弟がいい。
マグロの醤油焼きより、この吉野煮は、切り身も厚く、マグロを食べているゾという実感がある。
さらには鶏のチリソースや野菜煮もいい。
勝利に酔っていて隣の36歳痩せ型メガネ男子の食べ方を見ていなかった。
するとどうだろう。
ミックスサンドは、味の薄い野菜サンドから手をつけているではないか。
しかも食べ方が無意識ではない。
野菜サンドを見ながら、噛んだ歯型を見ながら、サンドイッチのかじる位置を変えながら食べ進んでいる。
おそらく、中の具とパンとのバランスを取っているのだろう。
お見事である。
次のハムサンドとポテサラサンドは、どちらかを先に食べるのではなく、両方同時進行で、交互に食べている。
午後の紅茶のみ具合も一定で、サンドイッチ二口→午後の紅茶と行き、その飲む量も一定であり、全くリズム乱れない。
若者にありがちな、「スマホいじりながら喰い」はせず、全神経をミックスサンドに傾けているのがわかる。
そして時折、満足そうな笑顔で笑う。
ああ僕も、初心に戻って、今度は弁当やサンドイッチと向かいあおう。
今日は君の勝ちだよ。