太陽の香りが広がった。

食べ歩き ,

「アジのひいといちです。」
そう言って出された焼き魚を食べた瞬間、口の中で波しぶきが舞った。
二噛み、三噛みするうちに、太陽の香りが広がった。
「アジの一日干し」である。
高知では「ひいといち」という。
見事に太って、身に赤みが刺して、うっすら桃色になったアジを、自分で1日干した干物である。
先ほど同じものを刺身で食べたが、すでに脂がのって艶があり、肉の味が深い。
干物に箸を入れると、抱きつかれるようにすうっと深く入り、ほろりと身が剥がれた。
口に運べば、濃縮したアジの滋味がぐっと心を捉える。
それでいて、ほかのアジの干物のような、老成感がない。
塩も淡めで、みずみずしさを感じる干物なのである。
だからご飯が猛烈に恋しくなるというよりは、酒が飲みたくなる。
安芸虎あたりをぬる燗にして、このひいといちだけで3〜40分ゆっくりとすごしたい。
そうしたら、どんな幸せがやってくるのだろう。
そう思わせる干物は、なかなかない。
もし高知「ゆう喜屋」に行かれて、品書きに乗っていたら是非。