入谷鬼子母神「のだや」にて

天然のしぶとさ。

食べ歩き ,

天然の味は、しぶとい。
これから川を登るというハードワークに備えて、シヤコなどを旺盛に食べている鰻の味である。
種存続のための生命力が、濃い味となって、舌をたく。
天然青うなぎが入荷したと聞いて、駆けつけた。
江戸時代より味の良さで評判であったという児島湾の青鰻である。
6枚目の写真は、手前が養殖の共水うなぎ、奥が青鰻である。
ご覧の通り腹は白色で側面は黄金色、背側は濃い若草色をしている。
昔の「青」は「緑」を指していたので、青鰻という。
白焼と鰻重で食べ比べた。
養殖でも十二分に、おいしい。
だが青鰻は、明らかに違う。
捌いた時の厚みは同じようだったが、焼かれるとふっくらとしている。
噛めば身質がしっかりとしていて、共水が5〜8回くらいの咀嚼で、ふわりと消えていくのに対し、青は20回ほどでようやく喉に落ちる。
喉に落ちかかる刹那、海老殻のような青臭のような香りが、ふっと抜けていく。
味が濃厚で、太く、噛んで小さくなった、最後の最後まで味が継続する。
うな重がまた素晴らしい。
そんな濃厚な味が甘辛いタレと抱き合って、食欲を煽る。
焼いた皮の色にはただ黒いだけではない複雑があって、これが自然さと教え、腹側はパリンと焼けて、歯を驚かす。
皮下のコラーゲンも多く、ニュルンと唇に触れ、舌の上を流れていく。
そして、独特の香りが蒲焼ダレの香りの溶け合い、なんとも複雑な香りとなって、感応を刺激する。
その香りは、山椒が効かないほど強烈なのであった。
この味わいをしぶといと言わずしてなんと言おう。
人間の味覚に、自然のたくましさを撃ちつけて、青鰻は消えていった。
 
蒲焼白焼きとも手前が共水で奥が青鰻
縦の写真は向かって左が青。
天然ゆえにいつもあるとは限らない。