大阪のよき食堂で昼飲み

食べ歩き ,

大阪庄内、下町の食堂は、世界で一つのしつらえがあった。
定食屋なのに、カウンター席の中に鉄板があるのである。
鉄板の前には親父が陣取っていて、次々と入る注文を見事なコテさばきで仕上げていく。
定食屋の中にお好み焼き屋がある。そんな感じなのであった。
そのコの字のカウンターには、今日も常連客が座っている。
みなさん見た所、70以上である。
昼だというのに皆飲んでいる。
「今日はお湯割水割り?」
隣に来た推定80歳のおっさんは、座る前に店員から尋ねられた。
「水割り」と頼むと、おかずケースに行き、さつま揚げとカニカマの盛り合わせをとり、醤油をドボドボとかけて、水割りを飲む。
テレビを見ながらひとり、笑顔を時々浮かべて飲む。
そうして30分いて帰っていった。
そんな人もいれば、延々居座っている人もいる。
80歳だろうと思うおばちゃんは、生ビール片手にイワシの煮付けを食べている。
やがて空のジョッキを上げて店員にいう。
「おかわり、これお父ちゃんがおごってくれた」と隣のおっちゃん推定80歳を指す。
二杯目を飲み干したところで、また同じおっちゃんにご馳走になったようである。
「お父ちゃんがもういっぱいくれるって。おかわり。お父ちゃんが飲め飲めいうてくれる。優しいわ。こんなおばあちゃん酔わせてどないするんやろ。はははは」
そうして三杯を飲み干した。
そこへ別の推定80歳のおばちゃんが登場、
そのおばちゃんにも一杯ねだって、ご馳走になったようである。
「えんちゃんが、いっぱいくれるって。でももう飲めんから、夜につけといて」。
夜も来るのか。
昼飲み天国である。
全員が飲んどる。
昼飲み天国なのは、皆堂々とお飲みになっているからだけではない。
おかずがみな250円だから、心置きなく飲めるのである。
しらすおろし、ホタルイカ酢味噌、ハムサラダ、野菜炊きわせ、おしたし、てっぴ、イワシ煮付け、フライ盛り合わせ、ブリの煮付け、塩辛などがガラスケースの中でずらりと並び、酒飲みたちを待ち構えている。
そして忘れていけないのが、鉄板焼きである。
お好みや焼きそばもあるが人気は、とん平焼である。
昔ながらの小判型で、たまごわふわふわ、そしてほのかにカレー香がする、自家製ソースがたまらない。
こいつを定食にしたのが、ここの一番人気のようである。
多くの人がおかずで一二杯やってから、この定食を頼みご飯を掻き込んでいる。
僕はと言えば、ハムサラダ、ハスと南京とナスの炊き合わせ、てっぴ。イワシの煮付けを取り、さらにお造り盛り合わせ(650円)、ハムエッグ(350円)、ズリ焼(100円)を頼み、ハイボール、冷酒、芋のお湯割と、弾んでみた。
そして最後にとん平焼でしめた。
腹パンである。
お会計は、3200円なり。
いい食堂だなあ。
ここや にて。