「国産小麦粉は、熱ですぐにやわくなってしまうので、毎日が勉強です」。
「カドヤ

「国産小麦粉は、熱ですぐにやわくなってしまうので、毎日が勉強です」。
「カドヤ食堂」のご主人橘氏は、巨体に似合わない優しい口調で語った。
毎朝、北海道産小麦粉「春よ恋」を石臼で挽き、慎重に水を放ち、無漂白粉を混ぜ、麺を打ち、雲呑の皮を打つ。
１８０〜２２０日飼育の比内地鶏の雌の丸で出汁を取り、
鶏油を丹念にのぞき、酸化させないように冷やし、再び過熱し、煮干し系出汁を加える。
叉焼の豚肉も、お客さんの負担にならぬよう、廉価な部位をいかにおいしくしあげるか、試行錯誤を重ねた。
水も、保温力のある有田焼の器も選び抜いた。
膨大な労力と時間を費やした一杯のラーメンは、そんな努力など我々には微塵も見せず、さりげなく、深々とうまい。
「なつかしいなあ」。連れが呟いた。
スープは丸く、麺は滑らかで小麦の風味がそっと舌を喜ばせ、心をほっこり温める。
ワンタンは、つるりと唇の間をすり抜けて、むにゅりと歯の間でバウンドする。
ワンタンも麺も、噛む喜びをわき上がらせる。
堅い事がコシだと思う人や、個性や主張する事がスープだと思う人とは、無縁の真っ当がここにある。
この真っ当。当たり前が、しみじみありがたい。
一杯のワンタン麺には、平凡である事の大切さ、簡潔とはなにかという答えが、静かに漂っていた

食堂」のご主人橘氏は、巨体に似合わない優しい口調で語った。
毎朝、北海道産小麦粉「春よ恋」を石臼で挽き、慎重に水を放ち、無漂白粉を混ぜ、麺を打ち、雲呑の皮を打つ。
１８０〜２２０日飼育の比内地鶏の雌の丸で出汁を取り、
鶏油を丹念にのぞき、酸化させないように冷やし、再び過熱し、煮干し系出汁を加える。
叉焼の豚肉も、お客さんの負担にならぬよう、廉価な部位をいかにおいしくしあげるか、試行錯誤を重ねた。
水も、保温力のある有田焼の器も選び抜いた。
膨大な労力と時間を費やした一杯のラーメンは、そんな努力など我々には微塵も見せず、さりげなく、深々とうまい。
「なつかしいなあ」。連れが呟いた。
スープは丸く、麺は滑らかで小麦の風味がそっと舌を喜ばせ、心をほっこり温める。
ワンタンは、つるりと唇の間をすり抜けて、むにゅりと歯の間でバウンドする。
ワンタンも麺も、噛む喜びをわき上がらせる。
堅い事がコシだと思う人や、個性や主張する事がスープだと思う人とは、無縁の真っ当がここにある。
この真っ当。当たり前が、しみじみありがたい。
一杯のワンタン麺には、平凡である事の大切さ、簡潔とはなにかという答えが、静かに漂っていた