吉田牧場のブラウンスイスを使ったコンソメ

食べ歩き ,

液体の向こうには、草原が広がっていた。
一口。
岡山の小高い草原で、のんびりと草を喰む、牛たちが見えてきた。
吉田牧場のブラウンスイスを使ったコンソメである。
骨髄湧き出る骨でコンソメをとり、ほぼ牛が持つ塩分だけで仕上げ、エストラゴンの葉を通して濾したという。
和牛でとったコンソメと違って、気取りがない。
どこかのほほんとして、朴訥である。
脂の甘みもなく、その重層がないことが、かえって清明となつている。
牛自身が持つナトリウムが、舌を撫でる。
ブラウンスイスの穏やかな性格を、そのまま溶け込ませた、安寧がある。
数々のコンソメをいただいたが、こんなにも心を落ち着かせるコンソメは初めてである。
それは森永シェフの敬意だろう。
自我を捨て、ブラウンスイスの命とまっすぐに向き合い、心を削った表出だろう。
感動とは、そうした息もつかせぬ真摯な思いがないと得られない。
スープはその真実を伝えて、消えていった。
京都「ドロワ」にて。