富山「口岩」

刺身、掻き、揚げ。

食べ歩き ,

蕎麦はまだ攻めて来た。
最初に産地違いで、せいろを二枚食べた後、大人のハッピーセットを経て、刺身である。
魚ではなく、蕎麦の刺身である。
幅広に切った蕎麦を茹でて切り、塩とわさびが添えられる。
蕎麦の面に、塩とわさびを乗せ、包むようにして食べる。
噛む。噛む。
30回ほど良く噛むと甘みが顔を出し、口にゆっくり広がっていく。
心を優しく包み込むような甘みは、消えることなく、そのまましばらく留まっている。
甘やかな余韻に、田酒の燗酒を流し入れる。
すると酒の甘みが、蕎麦の甘みに溶けるようにして、去っていった。
次はそばがきである。
まず蕎麦の実を噛む。
そこには、かおりがほとんどない。甘みも弱い。
蕎麦は加工されて、香りと甘みを膨らますのである。
ドイツ製の木製挽き器で粗く挽いた、挽きたてをそばがきにする。
ゲランドの塩につけ、二口目はカラスミをまぶして食べる。
粗挽きたてゆえに香りが素晴らしい。
ほのかな青々しさの中の甘い香りが、鼻腔の襞を触る。
さらに揚げそばがきである。
粗挽きなので表面にカリカリとあられ的な痛快な食感あって、それがなかのもっちりとした食感と対比して、楽しい。
最後は温かい蕎麦、飛騨牛せり蕎麦が作られる。
蕎麦の上に飛騨牛の薄切りをのせ、熱々かけ汁をかける。
なにより汁が美味しい。
ふくやかな香りが、温まって、もっちりとした食感となった蕎麦を盛り立てる。
そして店主のそばへかける情が、心を温める。