ベースボールキャップを被った老人男性が入ってきて、「チャーシュー麺」と、ぶっきらぼうに言い放って座った。
おばちゃんが応える。
「いつもの?」
「ん」。
するとビールの中瓶が運ばれてきた。
「いつもの?」は、ビールだったのだろうか。
僕もお付き合いして、ビールを頼むことにした。
店内はU字カウンターが二つ設置され、固定の丸椅子が客を待っている。
漂う昭和の空気を肴にしながら、ビールを飲んだ。
「お待たせしました」。
おばちゃんが、「大陸特製冷めん」と「餃子」を運んでくる。
ここもまた別府冷麺の発祥の地とされている。
戦後朝鮮からの引揚者が、かの地で愛した冷麺を再現し、定着したという別府の人たちのソウルフードである。
前日行った「胡月」とは違い、だいぶ日本の中華そばよりの冷麺でだった。
初めて食べるが、どこか懐かしい郷愁がある。
珍しいキャベツのキムチをかじり、茹で牛肉を追噛み締める。
しみじみとおいしい。
遙か南の温泉地で、脈々と生き続けている北朝鮮民族の滋味を、つるると流し込んだ。