一口で、魔法にかかった

日記 ,

「うっうう」。
一口で、魔法にかかった。
唸ったまま、動けない。
それほどまでに、旨みが底知れない。
森の精が凝縮して、口の中でゆっくりと膨らんでいく。
うまい。
うまいが、これ以上飲んでは危険だよ、という禁断の香りがある。
舌を過ぎ、喉に落ちゆくと、生命力に満ちた一滴一滴が細胞に染み渡って、精を宿らせる。
アカヤマドリ茸を冷凍させて、一年寝かせてから作ったスープである。
ポルチーニ茸と言われることが多いアカヤマドリ茸だが、実際は違う。
ポルチーニは、ヤマドリ茸、ススケ茸、ヤマドリ茸モドキ、学名ポレトス・ピナフィルスという4種のキノコを呼ぶ総称で、アカヤマドリ茸ではない。
アカヤマドリ茸の学名の最後にオリエンタルとつくように、アジアだけに生息するキノコだという。
そんなキノコの滋養を凝縮したスープを、森に囲まれたレストランでいただく。
飲み進むうちに、自分が溶けて、森の空気と同化する。
「夏に飲むと、濃過ぎてしまうんです」。

キノコに取り憑かれた内堀シェフは、そう言って、誠実な笑いを浮かべた。
軽井沢「エブリコ」にて。