タンドーリチキンの美味しさ

食べ歩き ,

噛めば歯は、優しく肉に抱きすくめられる。
スパイスの香りが鼻に抜けて、鶏の滋味が舌に滴り落ちる。
肉を噛む喜びが、体に精気を巡らせる喜びが、皿から立ち上る。
肉を噛み締めては、鼻息を荒くし、野菜を噛み締めては、気を鎮める。
肉を噛み締めては、鼻息を荒くし、野菜を噛み締めては、気を鎮める。
時折赤ワインを飲んでは、その繰り返しの歓喜に沈んでいく。
「自粛続きで落ち込み気味の方もいますが、僕は店を休んでも毎日店に来て、目の前の木々を眺められましたから、気分が塞ぐことは少しもありませんでした」。
そう店主は話された。
おそらくテイクアウトしても、そう味は変わらないかもしれない。
しかしここには、タンドーリチキンの美味しさに高揚している、他のお客さんが出す気配が漂っている。
そしてなにより店主が、鶏肉を見つめ、スパイスを厳選し、最高に美味しい瞬間の過熱を見極め、美味しくなれと料理に込めた精神が、店の空気を清めている。
この空気に包まれて食べること。
それこそが、レストランで食べることの素晴らしさなのである。
京都「セクションドール」にて。