普通は塩焼き。
しかしシェフは、油で煮てみようと考えた。
そのセンスのおかげで、我々は幸せを得る。
3時間、低温でじっくりと油煮にし、提供前にオーブンでさっと焼き、青レモンのゼストをかけた「さんまのコンフィ」である。
まず。
今まで散々さんまを食べて来たが、頭も骨も尾ひれもなんなく、おいしく食べたのは初めてである。
次に皮下の脂やゼラチン質を意識したのも初めてであった。
噛むとニュルッと、皮の下に控えた甘いゼラチン質が舌に広がって、顔を崩す。
旬のサンマの魅力は脂であると認識していたが、このように個別に感じることはない。
舌は喜び、歯も口腔内の粘膜も喜ぶ。
それは、サンマの知らざるエロスなのであった。
次に身はしっとりとして、大海を泳ぐ筋肉が、損なわれることなく、生きている。
最後に肝である。
甘い。
優しく甘い。
正確には、かすかに苦味もあるのだが、そのかすかさが甘みに深みを与えて、うっとりとさせるのであった。
ああこう書いているうちにも、食べたくなる。
合わせた赤ワインも良かったよ。
料理といいワインといい、さすが「アヒルストア」出身だね。