「お好みは、コテで食べなきゃ、味がない」
関西の方はこう言われる。
東京に住む人間にとっては、長らく意味がわからなかった。
箸で食べるより、熱い。
食べづらい。
なのになぜなのかと、思っていた。
しかし今は僕も、完全コテ派である。
ではなぜコテで食べるとおいしいのか?
それを勝手に検証してみた。
(江戸っ子の戯れ言だと思って、許してネ)
①味は保守的である。小さい頃からコテで食べていた関西の方にとっては、箸で食べるお好みは、異次元のものとなる。
強いて言えば、かけそばをフォークで食べるようなものだ。
しかし、幼少の頃から箸で食べていた自分には当てはまらず、なぜコテの方がおいしいと思ったのか?
②実際食べてみるとわかるが、箸では、お好みを少量しか掴めない。
しかしコテではたっぷりと乗せることができるため、おいしさが倍増する。
ちまちま食べるお好みは、おいしくないでしよ。
③熱さも味である。
ハフハフ言いながら口に運ぶ楽しさは、箸では奪われる。
ただし猫舌の外国人には薦められない。
④コテで食べてみるとわかるが、口元まで持っていき、少しだけ吸い込むようにして口の中に入れる。
この
「吸い込む」という動作が肝心で、ソムリエがワインを味見する仕草と同じく、空気の流入を促し、香りが膨らんで鼻に抜けていく。
これが、味の旨さを感じるセンサーである後鼻腔を刺激して、味と香りの情報が同時に脳に送られ、より多くのうまみを感じることができる。
⑤コテでお好みを切る時、コテの裏側にソースや少量のお好みがひっつく。
これが肝心なのである。
コテで食べようと口に近づけた時、この裏側が下唇にくっつき、そのまま舌へとスライドする。
お好み自体は、よほど変わった食べ方をしない限り、ソース面が上、すなわち舌側ではなく上顎側に向くので、噛むまでソースの味が広がらない。
しかしコテで食べるとダイレクトに、お好みのお好みたる味が、直接舌に当たって、広がるのである。
このダイナミズムこそが、実はコテ食の隠れたる魅力なのである。
⑥だが、これらを箸食でできないかと考え、実験してみた。
a切ったお好みをびっくり返し、ソース面を下にする。
bコテですくい、広げた箸の上に乗せて、コテと同じ量を食べられるようにする。
c口に近づける時は熱くないが、ハフハフと言って、熱々だと自分を錯覚させる。
d箸で口の中に入れたら、息を少し吸う。
完璧である。
だが苦労して試みた「箸食でコテ食擬似体験研究」の成果は、なぜかむなしく、やはりコテに限るなあという、当然の帰結となった
法善寺横丁 焼き燃にて
豚玉890円