キャビアというのは料理人泣かせではないだろうか

食べ歩き ,

キャビアというのは料理人泣かせではないだろうか。
個性が強く、それだけで味が完結しているから、料理のしようがない。
缶ごと出すインパクトには負けてしまうのである。
しかしあえて佐藤シェフは挑み、スペシャリテにした。
ソローニュ産のキャビアはフレッシュで、ねちっこさが強くない.
卵としての甘味がすんなり味わえる。
そこにインカの目覚めを使ったニョッキとヘーゼルナッツのパイとマスカルポーネのムースを添えた。
キャビアの塩気は、芋の素朴な甘みに抱かれて和らぎ、ナッツの香りを得て軽やかに弾み、マスカルポーネのうま味に持ち上げられて、艶を増す。
明らかに我々の知っているキャビアなれど、ずいぶんと優しく、しなやかな味わいとなって、心をくすぐってくる。
おそらく、ニョッキ、ナッツの厚さ、泡となったマスカルポーネの量が、キャビア18gに対して精妙に計算されて出来上がった、新しい天体なのだろう。
しかし料理はそんなシェフの意志を隠して、自然な振る舞いで、我々を陶然とさせるのだった。
「パッサージュ53」のスペシャリテ。
「ソローニュ産インペリアルキャビアとジャガイモのニョッキ ピエモンテ産ヘーゼルナッツとマスカルポーネのムース」