キッチンの中央で、その人は多くの伝票を見つめながら、タクトをふっていた。真摯な目つきで、予断を許さない。
パルミットの料理を食べたとき、もしやと思ってその味の素になったのは、これじゃあないですか? とたずねてみた。
すると彼は途端に顔を輝かし、「その通り! ムルキムチ!」と、子供のような笑顔を浮かべた。
コリー・リー(Corey Lee)。
ミシュラン二つ星「BENU」の韓国人シェフである
フランス料理に日本料理のエッセンスを加えるのは、珍しくないが、韓国料理のテイストを加えるのは、ない。
考えてみれば、その発酵食文化は、味覚の宝庫である。
ウズラの皮蛋と生姜、牡蠣とキムチ、クラゲとエビ、牛蒡と焦がした葱といった、食べ合わせ上や組成的に合う食材を巧みに組み合わせていく。
そうして18皿が、サービスの方々の素敵な笑顔とともに、出される
中でも面白かったのが
恐らく皮が作り立てであろう、皮がするっと溶ける、ロブスターの小籠包。
アンチョビと苦みとナッツの甘い香りに、高原ビールを合わせて奨められたこと。
一つの丸いガラスの置物を、裏返したり棒を刺したり、蓋をかぶせたりして、4つの料理を盛り分ける、演出(3番目からの写真)。
魚胃袋と菊芋が内包するねっとり感を合わせた皿。
小籠包のツケダレの酸味に合いますといってサービスされた、ローデンバッハのフルーティーな酸味。
フカヒレとダンジネスクラブの皿に合わせた、ヴィンテージポルト。
生湯葉に合わせたシェリー。
コンソメに浮かべた生くらげ、生命の神秘が宿ったほのかな酸味。
全粒粉に添えた蜂の巣を形どったバターに蜂蜜。
ユーモアと未知の出会いが交差する。
帰り際に、間違いなく興味があるだろうと思い、鮎のフィッシュソース知ってる?」と聞くと、「どこで入手できる。どんな味?と、目を輝かせた。
そして別れ際には、また「そう!水キムチ!」と親指を立て、嬉しそうにわらうのだった。