焼津「馳走西健一」

カマスとキス。

食べ歩き ,

カマスに口づけされた。

カマスが僕の舌に、自分の舌を沿わせてくる。

一瞬、そんな感覚が襲って、鳥肌が立った。

定置網を一気に引き上げるのではなく、泳がせて、元気なものだけを船内の水槽で泳がす。

漁港では、それぞれの魚ごとに水槽で泳がしたのち、神経締めをする。

カマスの神経じめなんた聞いたことがない。

少し手を触れただけで、鱗は剥がれ、皮は痛む、繊細な魚だからである。

そんなカマスが、フリットになって目の前に置かれた。

マヨネーズ使わないタルタルと、ペコロスの酢漬けが添えられる。

「なにこれ」。

食べた瞬間、目を丸くした。

カマスという魚は、加熱するとパサつきやすい。

身が脆く、水分が抜けやすいのだろう。

しかしこのカマスは、水分が一切抜けていない。

ふんわりとしているが、少しねっとりもして、舌をからめてくる

カマスのキスである。

これに比べたら、今まで食べてきたカマスは、ミイラと言ってもいい。

それほどまでに、生命感に溢れて、意思がまだあるかのように、上品な甘さを

滲ませながら、口の中を舞うのだった。

聞けば小さめのカマスで、普段ならあまりつかないという。

未利用魚の価値を高める。

サスエ前田さんが中心となって、漁師と料理人がタッグを組み、生まれた、新たな宝石がここにある。

焼津「西健一」にて。

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