大阪「プレスキル

アランシャペルに捧ぐ。

食べ歩き ,

久しぶりにベッシー包みをいただいた。
「Poulet de Bresse en vessie et une Sauce Légère au foie gras トリュフをピケしたブレス鶏のベッシー包み季節野菜とフォアグラでリエしたソース」。
先日大阪「プレスキル」で特別に主催していただいた、「アランシャペルに捧ぐ」という会でのことである。
ベッシーはご存知、豚の膀胱である。
これに包み加熱することによって、芳香や滋味やエキスが逃げることなく包まれる。
真空調理や調理用バルーンを使えば、同じことができるのだろうが、それでは意味がない。
給仕人が、目の前で膨らんだヴェッシーを切り分けるデクパージュから、美味しさは始まっている。
いやメニューを見た瞬間からかな。
前にいただいたのは、高良シェフがレカン時代に作ってもらった、鳩だったなあ。
このベッシー、今はフランスでも中国産の乾燥や、人工のものをを使っているらしい。
こちらでは国産らしいが、なんと注文が40m単位からだという。
それではさすがに、使うシェフはいないだろう。
今回わわざわざ仕入れて、丹念に洗い、ブレス産の鶏(これも今のご時世では入手が困難)の皮下に、トリュフと挟んで焼いてもらった。
ちなみにフランスでは、膀胱をしっかり洗いなさい派と、洗いすぎると独特の香りが消える派がいるという。
ソースはアルビュフェラである。
鶏の出汁とクリームとバターを使ったシュープレームソースに、ピーマンのピュレを加えたソースだが、シャペルはピーマンを加えなかったという。
おそらくシャペルは、アルビュフェラに敬意を払いながら、もっと深みを与えて、より良きものにしたいと改良し、名前は残したのだろう。
まさに<料理、ルセットを超えるもの>である。
マデラ酒、コニャック、ブイヨン 、トリュフジュースで一晩マリネした鶏肉を詰め、そのエキスに、そのために作ったテリーヌフォアグラで濃度つける。
残ったソースは、野菜の味も入るので、絶対捨ててはいけないという。
継ぎ足し継ぎ足し、作っていく。
そのため今回シェフは、一回国産の鶏で同じ料理を作り、そのソースをベースにしたという。
さて目の前の皿から、複雑な香りが立ち上がって顔を包む。
鶏にナイフを入れると、その香りはさらに膨らんで、官能を撫でる。
しっとりと歯に食い込む鶏は、優しい滋味を舌に広げ、地平線の彼方までなめらかな、シックで奥行きのあるソースが抱きしめる。
一口食べた瞬間に、陶然となって、中空を見つめた。
そのまま動けなくなった。
そこには、高い技術と鋭敏な感性で、手間暇かけて作られたものだけが登り詰める、孤高のエレガンスが、横たわっていた。
食べながら思う。
ああ、このまま堕落していっても、いいと。
 
大阪「プレスキル」佐々木康二シェフによる一皿。