~ゆずれない味~
ゆずれない味というのがある。
例えば軽井沢「かぎもとや」のざるそばだ。
ねちゃねちゃで、時折短くて、練りワサビで、風味も控えめで、そばの幅もバラバラで、つゆは甘く、大ざるが1050円と、ケッコウ高い。
軽井沢には、もっといいそばを打つ店が多くあることも知っている。
しかし幼稚園のころから舌に染みついた味は、ゆずれない。
変わっていないという点もエライのだが、時代の潮流に流されないのもエライ。
必ず頼むのは、大ざるで、胡瓜とキャベツのお新香を食べながら待ち、運ばれると、甘いつゆを大根おろしとわさびで引き締め、バラバラの太いそばを、たっぷりつゆに漬けて手繰りこむ。
半世紀も食べているが、食べる度に「ああ、これこれ」と、にやける自分がいる。
それはまだ乾麺などが家庭にはなかった時代の、外食そばの楽しみであった。
非日常の味であった。
そしていまでも、他では出会えない味なのである。
~ゆずれない味~
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