ねちっ。そばが可愛く粘った。
そばの街、出雲にある「そば処 あごう」の釜揚げそばである。
店は、「えっ? こんな店に入って、おいしいの?」と思うほど素っ気ない。
スーパーの駐車場脇に申し訳なさそうに建っていて、「どうだ蕎麦屋でござい」というオーラがない。
しかしこの店は、蕎麦屋が食べに来る蕎麦屋だという。
何しろその粗末な店前には、「自家製石臼挽きそば」なる文字が、燦然と輝いているではないか。
注文に悩んだが、割り子(わりご)そば1枚と釜揚げそばを頼んだ。
この釜揚げがいい。
茹で上げたそばを、氷水で締めずに、そのまま温めたどんぶりに入れ、蕎麦湯をなみなみと注いで、割りこのそばつゆで薄めに味をつけ、揉み海苔とネギと大根おろしを乗せた、実にシンプルなものである。
そばのコシは無い。
しかしそのねちっとしたそばを噛めば、ほんのりと甘みがあり、草のような香りが漂って、そうそばがきの味と食感がそばになったような、そんな趣があるのである。
薄い味付けのつゆも、そばを生かしている。
酒を飲んだ後に、こいつで締めるのもいいな。
風邪を引いたら、これを食べにきたい。
いや、朝食にこれをいっぱい手繰るのもいい。
そんな夢想が次々と湧いて来るのであった。
ねちっ。そばが可愛く粘った
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