〜シリーズ食べる人〜vol8
MICHAEL KORSの黒いバッグから、取り出したのは、コンビニのおにぎりだった。
中央線の車内で覗き見ると、具はカルビである。
このバッグにおにぎりは,似合わない。
だが、グレーのスーツをピタリと着こなし、髪をポニーテールに結んだ推定36歳の女性は、いかにも働き者といった雰囲気があって、そんな彼女にカルビのおにぎりは、実に似合う。
カルビにぎりも、MICHAEL KORS入れられて、さぞ嬉しかったに違いない。
続いて小さな袋を取り出した。
「ひとくち清美オレンジ」、砂糖がけの乾燥オレンジピールである。
ははあ。これはデザートだな。
車内でのやむ負えない食事とはいえ、主食だけでなく、デザートまで用意するとは、お主なかなかやるな。
彼女は、おにぎりの包みを素早く剥くと、一呼吸その姿を観察してから、ガブリといった。
綺麗な顔立ちなのに、一口が大きい。
いや、一口のでかさと美人度合いは関係ないか。
目を閉じて、ゆっくり咀嚼すると、清美オレンジに手をかけるではないか。
そのまま一本パクリといった。
そして再びカルビにぎりである。
デザートやないんかい、合いの手かい。
カルビと米にオレンジは、合わないやろが。
そう思ったが、彼女は1人で幸せそうである。
時折鼻から満足の息がもれて、口角が上がる。
おにぎり、オレンジ、おにぎり、オレンジと食べ進む。
鼻息漏れる。口角上がる。
鼻息漏れる。口角上がる。
鼻息漏れる。口角上がる。
ああ、合わんのは分かっとるが、無性に試したくなってきた。