〜シリーズ食べる人〜vol3
久々に食べる人に出会った。
東西線の車内である。
40代半ばだろうか。
涼しげなチュニックを着た、知的な顔立ちの女性である。
さて。
オリーブグリーン色に染まった、セリーヌのビッグバッグから取り出したのは、ラップに包んだ海苔おにぎりだった。
続いて、楕円形の小さな白いタッパーも取り出す。
タッパーには、ギッシリとおかずがつまっていた。
おお、車内で正餐をとられるのか。
まずおにぎりを一口かじられた。
血糖値上昇的にはよろしくないが、あなたはスレンダーだから大丈夫。正しい。
次におかずといく。
どうやら鳥の照り焼きらしい。
整然と詰められたおかずは、キャベツ炒め、ナポリタン、茹でたブロッコリーと人参、昆布のたらこ巻き、しめじ炒めゴマかけである。
素晴らしい。
ここに豆さえ入れば、「孫は優しい」が、完成ではないか。
栄養にも気をつけているのね。
食べるペースもいい。
慌てず、のろまでもなく、一定のペースでおかずをつまみ、おにぎりを頬張る。
ちなみにおにぎりの具は、梅干しだった。
ナポリタンを食べるときに、キャベツ炒めと抱き合わせて食べるところなんざ、憎いねこんちくしょう。
ちょこちょこと食べゆくが、大きな昆布巻きだけは、一口でパクリといき、その時少しだけ口角が上がった。
好きなのね、昆布巻き。
食べたのも終盤だったもんね。
おにぎりを先に食べ終えると、包んでいたラップを丁寧にたたんで、タッパーの片隅にしまった。
これだけ几帳面な方なのに、なぜ車内なのか。
横揺れで弁当を食べると、快楽が増すのか、
他人の視線を無視する鍛錬をしているのか。
今は10時だけど、学生時代からの早弁のくせが抜けないのか。
目的地に着いたら、公園か何かで食べようと作ったが、作る時間が想定外にかかって、車内で食べざるを得ないのか?
いずれにせよ、状況としては逼迫しているわけだが、それを感じさせない余裕が漂っている。
泰然自若として、堂々たる姿に感服いたしました。
あなたを、“車内摂食の宗匠”と呼ばせていただこう。
迷惑かもしれないけど。