「うまいっ」
一人なのに、思わず叫んでしまった。
すっかり京都でおなじみになってしまった、「殿田」の親子丼である。
前々回が、名物たぬきうどんにいなり。前回が中華そばであった。
今回の選択肢は、「カレーうどん」「天玉とじ丼」「のっぺい」、「親子丼」「きつねうどん」である。
昔の僕なら二つ食べたなあ。
30分悩んで「親子丼」にした。
「うまいっ」と叫ばせた力は、甘辛味であり、緩い玉子とじであり、かしわの滋味であり、汁だくのご飯である。
それは、京都の薄味伝説を、嘲り笑うような地に足がついた味なのであった。
むろん甘辛味といっても、江戸のこっくりとしたすっきり味とは違う。
まったりとしてなめらかな、情緒溢れた味が、根底にある。
そして掻き込めば、甘辛味を粉山椒が引き締め、シャキシャキとした青ネギの対比的食感がリズムを作る。
あまり溶いていない、卵もいい。
甘辛汁を受けつけず、淡い味だけでとろんと唇に触る白身。
丼つゆとまぐわって甘みを膨らます黄身。
その二つを、微笑ましく見つめながら、自分はあまり表に出ないようにする、かしわの慈愛。
親子丼は、親子愛に溢れた料理なのだ。