「札幌カレー報告3」
素敵なカフェを一つ見つけると、それだけで人生が豊かになった気分がする、
そのカフェは、周りに飲食店などない、閑静な住宅街で、ひっそりと息づいていた。
店に入ると、左手がテーブル席で、実直そうな主人が一人が立つカウンターには、革張りの椅子が三脚用意されている。
そしてここがこの店の名前の所以なのだが、店の奥は革製品の工房になっているのである。
主人は、注文を受けてコーヒーを煎れ始める。
細い注ぎ口から、慎重にネルに落としていく。
やがて香り高い漆黒の液体が運ぶと、主人は奥の工房に移り、なにやら作り始めた。
店に入った瞬間に尻尾を振って出迎えた犬は、うたた寝を始め、JBLのスピーカーからは、ジャズヴォーカルが流れている。
客はいない。
こんな住宅街のカフェに、わざわざ来る客は、多くないだろう。
それがまたこの店の価値を高めている。
主人は、皮工房を営む傍でカフェを営んでいる。
おそらく1日誰一人としてお客さんが来なくても、困らないだろう。
でもコーヒーは自分の理想を煎れる。
コーヒーだけではない。
チーズケーキもインドカレーも、ハロワも、一切手を抜かず、本場同様のクオリティーを保ちながら、自分の考えを投影した料理を生み出していた。
それが彼の気質なのだろう。
皮職人としての、矜持でもあるのだろう。
ある日チーズケーキを頼んだ。
自家製発酵ヨーグルトを使ったというそれは、軽やかながらも、奥底にしぶとい酸味があって、心を掴む。
ある日豆カレーを食べた。
自家製ベーコンも入れてもらう。
焼きたてのチャパテイーは香ばしく、カレーは、豆自体の甘みに満ちながら、香り高く、食べるごとに顔が柔和になっていく。
そんなカレーだった。
人の優しさに触れるカレーだった。
「ロフト」にて。