「安閑園の食卓」は、台湾から日本に渡り、中国料理研究家として活躍した、辛永清氏の幼少期の実話である。裕福な家庭で育った食べ物の思い出だが、出てくる料理がたまらない。
蓋を取ると暖かな、甘い湯気に包まれる豆花。
丸ごと一羽食べる生姜たっぷりの焼鶏。豚血入りのスープ。
子豚の丸焼き、生湯葉を重ねた精進料理など、今の台湾でも出会えぬ料理が、情感たっぷりに描かれている。
たゆまない、作る人への愛があり、読むだけで、同じ環境の中で、人々と笑いながら食べた気になる。その後戦争で生活は一変するが、辛さんは言う。
日常の些細なことの中に、宝物はある。
いつの時代にも、注意深く見つめてさえいれば、宝は誰にでも見つけることができると