「はじめまして」。
一口すすった途端、スープにこういわれた。
今まで何千というスープを飲んできたが、こんなスープは初めてである。
それでいてどこか懐かしい、遠い記憶の片隅に潜んでいたような温かさがある。
チュペ・ロコト・レジーナ。詰め物をしたロコト(赤パプリカみたいなペルーの唐辛子)のスープという意味である。
薄き色したスープは、とろりと舌に広がっていく。
そのとろりは、生クリームではなく、チーズが溶けて生まれたものだ。
野菜だろうか、穏やかな甘さが来て、酸味が膨らんで、微かに辛さが顔を見せる。
その味わいの感覚が、とてもゆっくりで、一匙ごとに悠久の時間があるような気がしてくる。
ゆっくりとゆっくりと、北ペルー伝統のスープを飲む。
ミネストローネのように、野菜を炒め煮にして牛のコンソメを注ぎ、チーズを入れて溶かし、ロコト・レジーナを入れて煮込んでいく。
北方の寒さが、チーズを欲したのだろうか。
アンデス山脈から吹きおろす風に負けぬために、入れたのか。
人とのつながりを深めるために、粘度のあるスープを考えたのか。
一口、二口と飲むうちに、言葉は無くなり、口はとじ、目は虚空を見つめはじめ、心は安寧へと向かう。
大衆食堂という意味の、リマ「ピカンテリア」にて。