「ぬるいサバ」

食べ歩き ,

「ぬるいサバ」。
熱々の皿にサバの切り身が置かれている。
皮は焼かれているが、身はまだ生の気配ままである。
香ばしいサバの皮に歯を立てると、身に、ずぶりと歯が包まれる。
半生ではない。
その身は、生サバの香りを残しつつ温いのである。
焼くか、生か。熱々か、冷たいか。
青魚はそう料理をされてきた。
しかし逞しき熾火は、生の風味を残しつつ、微かな熱をサバに入れる。
ぬるいサバの脂がふわりと溶けて、艶かしさと優しさが舌に広がる。
サバは意味ありげな表情で、ふふふと微笑み、惑わしてくる。
僕はその前で、なす術もなく、戸惑いながら、ただにやけるしかない。
神戸元町「bb9」にて。