「つるるるるぅっ」。
その細いやつは、唇を高速で通り過ぎて、上顎を刺激する。
「ああ。気持ちがいい」。
うどんを食べたのに、おいしさより気持ち良さが先行する。
それがこの細うどんに転向した理由なのだろうか。
「釜たけ」時代は、もっともっと太く、うどんはゆっくりと口元に登ってきて、噛み締めながら、うまさを確かめた。
「やはりうどんは高速だ。高速で食べなあかん。唇ごし、上顎ごし、のどごしの三拍子が揃ってなきゃあかん」。
伝説のうどん職人木田武史さんは、そう思たのだろうか。
高速で入ってきたうどんを噛み締めると、8〜9回ほどで口の中から消えていく。
そして小麦の香りだろうか。甘い香りの余韻を残す。
チキンカツとちくわ天を食べた後は、「素ぶっかけ」を頼み、たまご天を追加する。
「つるるるるぅっ」。「素ぶっかけ」を勢いよくすする。
そしてたまご天を潰し、ぶっかけ汁に溶け込ませながら、「ずるるるるぅっ」と、粘度と甘みが少し増した汁とともにすする。
やはりここれだけでは足りません。
「きざみうどん」を追加する。
大阪風のそれよりお揚げの味の滲み方が、淡い。
でもその分、うどんの淡い味を引き立てる。
「ずるっ。つるるるるぅっ」。
うどんを食べるのに躊躇してはいけない。
一気呵成、脇目も振らず、ただひたすらうどんを愛して食べ進む。
き田けうどん