「いぶりがっこの未来」
秋田駅前には「市民市場」があって、海産物やら野菜やら、漬物類などを、おばあちゃんが売っている。
漬物王国秋田を代表するいぶりがっこ、いぶり人参や、花すし、なた漬け、胡瓜や山菜、大根の醤油漬け、味噌漬け、酒粕漬けなどが売られている。
みんなおばあちゃんたちの、長年の感覚で作られてきた漬物である。
いぶりがっこでいえば、土産物屋で真空パックされたそれを買うのもいい。
だがおばあちゃんたちのいぶりがっこは、生きているいぶりがっこである。
還元水飴も、酒精も、アミノ酸、サッカリン、ソルビン酸、着色料も使わずに仕上げた、素朴な、生き生きとした、いぶりがっこである。
代々受け継がれてきたいぶりがっこを、次の世代へと繋ぎ、未来を作っていく。
郷土料理という食文化は、彼女らに委ねられていると言ってもいい。
名割烹「たかむら」の高村さんも、市場のあるおばあちゃんが作るいぶりがっこを購入して、出しているのだという。
しかしその漬物類が危機に瀕している。
ハサップの関係か、条件の整った施設として、保健所が認めた施設でないと、販売してはならないという条例が、来年から施行されるらしい。
当然ながら、おばあちゃんたちに、そんな設備投資はできない。
「今年で作るのやめるか」という話になっていっていると聞く。
どこの世界でも、グローバル化、近代化の波に飲まれて、本当に大切にしていたものが失われていく。
先人たちが長い時間をかけて紡いできた食という文化が今失われようとしている。
高村さんは、私費を投じて設備を作り、そこをおばあちゃんたちに使ってもらうことも考えているという。
本来なら行政が考えることではないだろうか。