「ああ、おいしい」

日記 ,

「ああ、おいしい」。

不覚にも一口食べて、平凡な感想をもらしてしまった。それほどにこちらを無防備にさせるおいしさの深みがあった。
血液の鉄分、肝のうま味、あっさりとした淡い滋味を漂わす部位、脂の甘み、練り肉ならではの複雑な味わい。微かに入れられたレーズンの甘酸っぱさ。生地の香りとしっとりとした食感。
塊となって集結したそれぞれの要素を、一つ一つ明確に感じさせながら、丸まっている。
鴨肉、豚肉、ブーダン。すべての肉の精が、舌とからみ、まぐわい、微笑みながら誘惑する。
僕らはその前で、だらしなく笑い、目を輝かせる。
これは各肉の魅力を知り尽くし、それぞれに敬意を払いながら精密に仕立て上げたパテ・アンクルートである。
作ったのが31歳のシェフで、日本人というところに驚く。
「ボタニック」山口シェフのパテ・アンクルート。

ああ伊藤君に食べさせたい。