《洋食おがた ミーツ サスエ&サカエヤ》VOL8
息を呑んだ。
言葉を失った。
ハンバーグを前にして、息を呑んだのは初めてである。
藤井さんの近江牛を新保さんが手当てしたひき肉で作ったハンバーグだという。
「今まで作ってきたハンバーグとまったく違うことに驚きました」。
緒方さんは、そう嬉しそうに言われた
いつまでも見惚れているわけにはいかない。
フォークとナイフを手に取り、切り分けた。
静かである。
断面はしっとりと濡れている。
しかしよくテレビのレポーターたちが「すごい肉汁です」と、流れ出る半透明の液を勘違いして表現する、脂(肉汁ではない)は姿を見せない。
口にする。
ああ、なんと品があるのだろう。
甘みがじっとりと流れ、広がっていくが、くどさが微塵もなく、さらりと舌を流れ、喉に落ちていく。
その瞬間、牛の命は香りとなって、雄叫びをあげた。
陶酔を呼ぶ凛々しい香りが、口に充満し、鼻に抜けていく。
これは官能をくすぐる、ハンバーグである。
これは恋心に火をつけるハンバーグである。
そして我々に教わる。
真においしいものは、まろやかさに包まれていることを。
そして我々に指し示す。
完成されているように見える「洋食」という料理の未来は、果てしなく広がっているのだということを。