〈日本最古の店〉

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〈日本最古の店〉
「いらっしゃぁい」。
ガラス戸を開けて店に入ると、三和土に置かれたパイプ椅子に座った、おじいさんから声をかけられた。
朝11時ですが、もうお酒をお飲みになられている。
ビール片手に、野菜の煮物とカレーソース、なぜか柿を肴にして、いっぱいやられている。
常連だろうか?
おばさんに、「カツ丼と中華そばください」と頼むと、「はいありがとうございます」と厨房に下がっていった。
するとおじいさんがやおら立ちあがり、厨房へ入って作り始めたではないか。
なんとご主人なのであった。
キャベツを千切る音が聞こえる。
ドンカツを揚げる音が聞こえる。
麺を茹で、カツを油に入れたのか、老主人は、ひと時客席に戻り、ビールを飲んだ。
やがて仕上がり時間をぴたりと揃えたカツ丼と中華そばが運ばれた。
ここは、大正初期1912から1913年に創業されたとされる福島で最も古いラーメン屋である。
いや、現存する日本最古のラーメン屋は、神戸の「大貫本店」大正12年1924年 東京新川の「大勝軒」1919年 東銀座「萬福」1929年なので、日本最古なのか。
しかしながら、老舗然としてないさりげなさがいい。
中華そばもまた、さりげない。
一口飲んだ瞬間に、「はぁ〜懐かしい」と口走らせたスープは、煮干しが香り、豚脂も香るが、きつくない。
丸く、脂も少なく、醤油味もここだという一点で落ち着いている。
その中を、コシのある中太ちぢれ麺がのぼってくる。
ここには、普通であり続ける偉大がある。
そしてカツ丼である。
蓋つきがいい。タクアンがいい。
甘めのウースターをご飯にかけ、その上に切りたてキャベツを敷き詰め、焦げるくらいにガリッと揚げたカツにソースをまぶし、上に置く。
肉はやわらか、時折出会う脂がい。
カツを齧り、キャベツソースご飯を掻きこむ。
ご飯の底にはソースが溜まっているので、自分の裁量て、まだらソースご飯と混ぜて食べるのがいい。
中華そばもカツ丼も、100年という月日の流れだろうか、すべてが自然である。
跡取りはいないようなので、この日本の財産を味わうなら、急がなければならない。
会津若松「三角屋」中華そばやカツ丼の写真は 別コラムを参照してください