「もう10年頑張らんとな。ははは」。
75歳になられた、元祖ぺら焼きの三代目店主
中山郁子さんは言う。
お母さんもおばあちゃんも、80過ぎまで焼いていた。
ぺら焼きはとはなにか? 土佐清水の人たちのソウルフードである。
ヘラを使って焼くから、あるいはペラペラに薄いから名前が付けられたとも言われている。
いずれにせよ、いつの間にか土佐清水の人々の心と舌に忍び込み、離れがたい食べ物となった。
まず小麦粉と水、卵液を混ぜた生地を、鉄板に薄くのばす。
宗田節粉、青ネギ、天ぷら(さつま揚げ)を乗せたのち、生地を注ぐ。さらにもう一個卵を割って溶き、かける。
そして裏返し、コテでペタペタと押さえる。
また押さえたら、ソースを塗って折りたたみ、上にソースを塗って完成である。
食べればふんわりモチっとして、やや厚いクレープといった風である。
具が少なくとも、生地が薄くとも、人を笑顔にする力がある。
中濃ソースでもウースターでもよし。中には具を入れないで、醤油を塗って食べる人もいると言う。
生地をこよなく愛しているのだろう。
店内には、深夜食堂の安倍夜郎さんが書いた似顔絵が飾ってあった。
「そっくりですね」と言うと
「そやね。シワの数まで似とる。はははは」と、笑われた。
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