夜は、歴史あるクルーヌンハカ(Kruununhaka)地区に店を構える、「コルメ・クルーヌア(Kolme Kruunua)」に出かけた。
創業62年という店内は、緩やかな空気に包まれ、ひっそりと時間が過ぎていく。
フィンランド照明デザイナーの先駆者でのある、パーヴォ・トュネル(Paavo Tynell)がデザインしたというランプが、心を和らげる。
そのフォルムには、時間がゆったりと流れていた時代の優しさが滲んでいる。
さて、ここに来たのは、昔から変わらぬ味で作り続けているという、フィンランド人のソウルフード、「ミートボール(Lihapullat)」を食べるためである。
続いて、トナカイの肉も食べようと言う魂胆である。
昨夜の反省から、前菜もスープもなし。いきなりメインと対面させていただいた。
牛肉だけだろうか? ミートボールは、豚肉入りハンバーグのような優しい食感と甘みがある。そこにブラウンソース。
昔の庶民派洋食屋の、あまり凝っていないデミグラスソースといった味わいで、親しみが持てる。
これ、白いご飯や白スパにも合うね。
だからマッシュポテトに混ぜて、ミートボウルになすりつけて食べる。なんて食べ方がいい。
続いてトナカイである。
薄切りのソテーブラウンソース(Poron sisäfileetä)だが、ミートボウルより味濃く、とろみが無い。
トナカイを噛む噛む。噛んでいくと最後に、ようやく味にたどり着く。
大和煮を食べていて味付けの奥に、やっと味を発見したような感じである。
そして喉に落ちる刹那、微かな臭みが漂う。
獣臭とは違うクセのある香りは、苦い木の皮を噛んでしまった時の個性に似ているか。
これがトナカイ君のせいなのか、冷凍や質のせいなのかは、判然としないけどね。
試しにレバーの時を思い出し、ベリーを絡めて食べてみた。
すると不思議。
まだ生きていて、ベリーを食べていた時の記憶が蘇ったのに違いない。
もっと臭みが増したのです。
ソースが流れ出ないよう、マッシュポテトの土手を壊さず食べていたが、途中でそれは間違いだと気がついた。
ソースとマッシュポテトをこねて、肉に絡めて食べるのである。
隣の老夫婦はそうして食べ、二人で微笑み合っていた。
ヘルシンキの静かな夜である。
4
「コルメ・クルーヌア(Kolme Kruunua)」
食べ歩き ,