<駅弁勝負> 第16番
食べたことない駅弁を買う時は、二種類買うことにしている。
一つがダメでも、もう一つにすくわれるからである。
これは旅を彩るための、不可欠なリスクヘッジとして定められている。
(両方ダメという事もあるが、その時は自分の弁当選びの才を猛省しよう)
また、旅に出る駅弁を東京駅「祭」等で買う時は、これから行く方向の弁当を買って、旅情に花を添える。
広島に行くのに、青森の弁当を買っては盛り上がれない。
だが今回は、どうしても気になっていた弁当を購入したくて、岡山に行くのに八戸の弁当を買ってしまった。
八戸といえば「吉田株式会社」。あの惜しまれつつ無くなった名作、「分とく山 津軽景色」を作っていた会社である。
「大漁市場 青函味くらべ編」1300円。
この「編」というのがいい。土地の味をちょっと編んでみましたという、知的感がそそられる。
青森からは、ズワイガニフレーク、イクラ醤油漬け、鮭ハラス、ホッキ。
函館からは、蒸しホタテに蒸しウニ、煮イカの参戦である。
経験上、蟹やイクラ、ホタテが入っている駅弁は、見向きもしないのだが、ホッキという珍しさに惹かれて、買った。
ご飯は酢飯と醤油風味付け飯。
さて隣の50代男性は、「鶏照り焼き重」。
ご飯の間に鶏そぼろを挟んだ、いわゆる“二度おいしい系”の強敵である。
だが飲み物はBOSS。ご飯にBOSS。
ハハ。今日も勝ったなと蓋を開ける。
揺れて散った、蟹やウニを整える。
食べる前のリペアよし。箸の割れ方よし。食べる順番よし。今日も指差し確認抜かりなし。
味の薄い、函館から行こう。
だが、青森函館の海鮮陣の中でなんとか面目を保ったのは、ホタテと鮭ハラスだけであった。
イカは咀嚼力を試され、ホッキは酢漬けで、味を探さなければいけない。
よくあるホタテの煮物は、ふんわりで味わいもある。
蟹やイクラは味が濃い。そして酢飯がいきていない。
ううむ。これではようやく勝てたか。BOSSの分勝てたか?
いや弁当だけなら負けている。こちら1300円、あちら1000円以下だもの。
どうした吉田屋。
敗北感に打ちひしがれながらも、反則だとは知りつつも、もう一個の弁当を取り出した。
「とろ〜り煮あなごめし」広島駅弁会社である。
以下次号。