言葉が走る。
想いが走る。
いつものノートに風情が滲み、温まる。
上質なノートは買っても、ペンにはこだわらない。それが今までの自分だった。
なぜなら、ペンを買ってもすぐ失くすという自分の性格を熟知しているからである。
しかしもう60近いのだから、モノを大切にしなくてはいけないのではないかと、こじつけて万年筆を買った。
パイロットの本社に行き、様々なペン先と万年筆を試させてもらった。
早く、キレイに、分かりやすく。
ある方から奨められた毛筆のペン先のファルカンは、美しい文字を描き出したが、条件にあったのは、カスタムヘリテイジ912のファインミディアムだった。
パイロットの担当者は、実に懇切丁寧で、ペン先の正しい向きやきれいに書けるノートの位置まで教えていただいた。
購入して明らかに変わったことがある。
今までの文字は、ミミズがのたくりすぎて、時折自分でも判読不明だったのが、読めるミミズとなったことである。
そうなると、さらに書くことが楽しい。
空になったタンクにインクが注入されていく。
このインクが文字となって、生まれていくことを想像する。
しばらく使ってみると、文字をきちんと書くようになっていることに気づいた。
一文字一文字、思いを込めている自分がいた。
文字を大切にする。
自分の気持ちをおざなりにはしない。
モノを大切にするということは、単にペンを可愛がり、失くさないということだけではなかったのである。