鮎は生きていた

日記 ,

鮎は生きていた。
頭から齧りつけば、「バリッ」と音が響いて、皮も身も骨も粉々となって砕け、香りを爆発する。
その瞬間、「どうだっ」と鮎に叫ばれた。
鮎が自慢する。鮎ならではの誉を、恥じることなく、さらけ出す。
潔いまでの自尊が迫って、心を打つ。
もっと食べろとあおる、皮の香ばしさ。肝の苦みに潜む、ほの甘み。
淡い身の味を噛みしめていくと、最後に湧き出る川床の香り。
ほくほくとした子供の、なんとも上品な甘み。
岐阜県郡上和良川の子持ち鮎が、力量を人間に見せつけ、誇る。
人間は、ただただ「はははは」とだらしなく笑うことしかできず、自然の高徳に感謝する。
鮎自身の脂で揚げるように、香ばしく、もてる味を凝縮して焼き上げられた鮎は、永年鮎と対峙してきた、「川原町泉屋」の泉善七さんだけが抽出できる味わいなのである。