<機内食シリーズ第7弾> 小説「機内食」第2幕
よく眠った。
夢も見ずに、トイレもいかず、熟睡した。
もう機内は明かりが灯されている。
あと一時間もしたらディナーだろう。
機内食が待ち遠しくなるなんて、初めてかもしれない。
アイオープナーに、ブラッディマリーをもらい、食事を待つ。
前の機内食がムースだったせいだろう。
消化がよく、お腹が空いてきた。
今度はメニューが先に配られた。
タイトルは、「フランス各地から」とシンプルに書かれている。
前菜が、「赤ピーマンのムース」。
主菜が「鶏のフリカッセ サンセール風味」か、「スズキのクネル、ナンチュアソース」が選べる。
前菜は軽く、現代フランス料理だが、鶏はロワール川流域、魚はリヨンという、堂々たるフランス郷土料理である。
そしてデザートは、ブルターニュ風フランときたもんだ。
鶏を選び、白ワインをもらう。
楕円の器を開けると、白いソースにからんだ鶏が横たわり、ペパーミントを散らしたバターライスが添えられている。
トマトのクーリがかけられた赤ピーマンのムースは、甘く、うっとりと舌の上からなくなっていく。
鶏は、幾多の機内食における水分奪取型のパサパサとは程遠く、サンセールとほのかなにんにく香漂うソースとまみれ、しっとり崩れていく。そのソースをからめながら食べる、バターライスのうまいこと。
生野菜として添えられた、キャロット・ラぺのドレッシングも完璧である。
隣席の女性が食べている魚をのぞき見れば、つくね状クネルになっているため、味が抜けていないのだろう。
甲殻類独特の香りまき散らす、濃厚なナンチュアソースをからめながらスプーンで一口すくうと、幸せそうな笑顔が浮かんだ。
添えられているのは、パセリを散らしたバターライスとクレソンのソテーである。
デザートのフランはラム酒が効いた上品な甘さで、プラムと滑らかな生地との食感がいい。
おいしい、と感じると同時に、これから向かうフランスの、肥沃な土地と豊饒なる食文化への、敬意が膨らむ。
この機内食を作った人の願いは、そこにあるのかもしれない。
食べていて気持ちが満たされるのは、そのせいなのである。