「何か迷ったら、長野さんだっだらどうするかを、まず考えます」。
長野県原村で祖父の代から40数年続く寿司屋を継いだ中山さんは、そう言われた.
長野さんとは、「海味」の故長野さんである。
中山さんは、福岡のさかいさんや天本さんの兄弟子にあたる。
「僕は人を育てられません」と、弟子は取らず、家族経営で寿司屋をやられている。
その寿司は真っ直ぐな味だった.
緑豊かな田舎に合わせた、洗練され過ぎない純朴な寿司である。
今日の握りでは、昆布締めのすずきと、血合いよりの香り爽やかな中トロ、しなやかな肉体に色気が乗ったエボダイ、煮あさり、そして春子がよかつた。
「丁寧に仕事しろ」。
「常に謙虚であれ」
「謙虚であって攻撃的にあれ」。
長野さんの言葉は、この三つだという。
寿司はおつまみと握り15貫で8000円。
「小鯛一貫お願いします」。
そう言いながら握り寿司を置いていくや中山さんの握りは、律儀という心がこもっていた.
原村「中野屋」にて。