「それはまずい。まずい食べ方だよ」。
いきなり先制パンチを喰らった。
ここは博多の蕎麦屋である。
品書きを見ると、蕎麦は、二八、十割、さらしな、二色(本日はしそ切りとウコン切り)とある。
そこで酒は飲めないが、そば前に「わさびいも」と「玉子焼き」をもらい、十割のもりそばと二八のかけをもらうことに決めた。
注文を受けた若い店員が、「順番はどうしますか?」と聞くので、「もりそばを先に」と伝えた。
ご主人に伝わる。
するとご主人が、仕事の手を止めて僕の前に立ち、いきなり冒頭の言葉を投げてきたのである.
「おいしい食べ方で出してあげる。とりあえず蕎麦を冷たいのと温かいの半人前ずつ出そうか?」
注文が無条件に却下された上に、いきなり蕎麦である。
わさびいもや玉子焼きは、食べることはできるのだろうか?
ご主人は有無も言わせず、半人前のもり蕎麦を二八で作り、目の前に置くと
「これは今食べてもいいけど、ゆっくり時間をかけて食べてね」という。
細い平打ちのそばをたぐると、ほのかに青臭い香りが漂う中に、甘みがある。
いいそばである。
次にかけそばが運ばれた。
おお、温かい分、甘みが増している。
鰹節香るかけ汁には、複雑な甘味があって、舌を丸く包み込む。
「おいしい」と呟けば、
「うちは味醂や砂糖で甘味を出さない。鰹節の甘味を引き出してつゆを作る」とご主人がいう。
さらに、しばらく置いたもりそばをたぐると、さっきより甘味が増しているではないか。
「おいたほうが美味しいですね」というと、
「出したてより、しばらく置くと、そばの甘味と香りが出てくる」と、ご主人が答えた。
「よし、ならもっとおいしいもりそばを作るから」と、冷蔵庫からそばを取り出し、茹で始める。
「さっきのもりそばが、シャワーを浴びた男性なら、これは湯上がりでシャワーを浴びていない。18の娘」。
そう言って出してくれたのは、「あつもり」であった。
茹でたばかりの蕎麦が、そのまませいろに盛られている。
シャワーを浴びていない、いや冷水で締めていない分、ふんわりと甘い香りが立って、口の中を満たす。
じっとりと広がる優しい甘みは、まさに娘から滲み出る、つたない色気である。
「ああ」と言って目を細めると、ご主人はまた別の動きを始めた。
以下次号。