「僕らの土地の恵みは、寒さです。寒さがあるから魚にも脂が乗る。そして春のありがたみがわかるのです」。
「魚治」の左嵜さんが言った言葉が、今でも頭に刺さっている。
我々は自然を大切にと簡単に言うが、実際人間がやれることは限られている。
このコロナも、自然を軽視した人間へ、猛省を図っている
左嵜さんは、自然に畏怖を抱き、敬意を表し、いついかなる時でも謙虚であろうとする。
それは、湖北に根付き、長年目に見えない菌を味方につけようとしてきた彼だからこそ、身についているのだろう。
そんなひだり嵜さんが、生産者のために琵琶マスの炊き込みご飯を作られた。
「生産者さんたちと手を取り、なんとか皆で次の時代の朝日を見られるようにがんばります!」と、メッセージが添えられていた。
作り方は簡単で、米を洗い、野菜と炊き込みご飯の汁を入れ、びわますを乗せて炊飯器のスイッチを押すだけである。
そこには、家事の負担を減らすのに、本物を家庭で簡単にという左嵜さんの優しさも込められていた。
都会にいて、琵琶湖の厳しい自然で育った生命がいただける。
こんな希少なことはない。
琵琶ますご飯を一口食べると、うま味がぐるんと舞って舌に落ち、笑顔が生まれた。
しかしうますぎず、これ以上でも以下でもない品がある。
僕は食べる目をつぶり、琵琶湖に吹く風を思い出しながらゆっくりと味わった。