「私を噛んで。もっと噛んで」。
鰻に歯が入った瞬間、うなぎからそう言われた。
江戸前のふんわりとして、脂の甘みが口に広がる鰻もいい。
地焼きの、カリッとした歯ごたえの、香ばしい鰻もいい。
しかし「瞬」のうなぎは、そのどちらにも属さない。
「瞬」のうなぎは、筋肉を味わう鰻である。
牛肉やジビエをいただく時と同じ、筋肉を意識させる。
歯を入れれば、押し返すような弾力があり、やがて溶けて歯や唇や舌にまとわりつく、
コラーゲンの濃い甘みが、生物としてのたくましさを感じさせる。
死んで焼かれても、なお消えていない、生の躍動がある。
だからうなぎを食べているというより、「食らっている」が正しい。
それでいながら、澄んでいる。
口の中で淀むことなく、さらりと消えていく。
伸びやかによく運動し、健康な餌を食べて育った動物は、健やかな肥え方をしていて、味わいが綺麗である。
きっとこの鰻もそうなのだろう。
その資質を、岡田健一さんが損なうことなく、高みに登らせる。
何気なく焼いているようだが、細い目を凝らしながら、一点の気も抜かずに、思い描いた理想に向かって、鰻の命を昇華させていく。
そうして「筋肉の味」を生かすのである。