<ヨネさん事件>VOL1

日記 ,

<ヨネさん事件>VOL1
昔、京都からの東京への新幹線に乗った。
買えたチケットは三人席の真ん中しかなかった。
満席か、仕方ないかと電車に乗ると、前後左右10数席ガラガラである。
これは貸切状態だあと一人悦に入り、ミックスナッツとウィスキーを買って水割りを飲みながら、一人文庫本を読んでいた。
一人静寂宴会ほど楽しいものはない。
「名古屋―名古屋―」。
名古屋に着くと、なにやらホームに旗が見えた。
すると、ガイドに引き連れられた10数名の団体客が入ってくるではないか。
お伊勢参りをしたおばあちゃんとおじいちゃん団体である。
「みなさんチケットを見て座ってくださいね」と、ガイドは言い残して後部座席の方へ、さっさと行ってしまう。
残されたのは、おばあちゃんとおじいちゃんと、私である。
チケットを見て座れといっても。おばあちゃんとおじいちゃんである。
一筋縄ではいかない。
「これどこに席が書いてあるっぺ?」
「小さくて読めん」。
「ああわしが読んでやる。わしは読めるぞ、おめえは3のAだ」。
「3のAてどこだ?」
「知らん」。
「わしは、5のEだ。どこだ?」
「知らん」。
動き始めた車内は、、おばあちゃんとおじいちゃんの迷走カオス状態である。
仕方なく、立って整理した。
「3のAならこちらです。はい4のDはこちら」。
「にいちゃん、ありがとなあ」と言われながら事態を収拾した。
だが、そこでは終わらない。
みなさん座るなり、馬鹿話を大声で始める。
なにしろ、おばあちゃんとおじいちゃんの声はでかいというのが、世の常である。
なにしろ、自分の声もよく聞こえないので、でかくなる。
その上ビールやワンカップを開けるは、煎餅や柿ピーや様々なつまみが開けられてボリボリ食べながら、話し、笑う。
こりゃいかんと、我関せずを装い、本を読みながら一人の世界に入ろうとした。
幸いにして両隣のおばあちゃんは静かな人である。
そうして、本の世界に没入しようとしていた瞬間、トントンと肩を叩かれた。
振り返ると、目の前にワンカップ大関がある。
「これ飲め。うめえぞ」。
「いや大丈夫です。まだこれがありますから」と、ウィスキーを指す。
「そんなこと言わんで飲め、旅は道連れっていうでねえか。ほら、飲め」。
「いや、お酒弱いんで」と断ったが、人の話を聞かないのが、おばあちゃんとおじいちゃんである。
「そんなこと言わんで飲め、わしらの酒を飲んでくれ(わしらの酒飲めねえっていうか)」と迫られたので、「いただきます」といただくことにした。
カップ酒を開けて舐めると、また誰かが肩をたたく。
振り返るとそこには、さきいかがあった。
「ほれこれ食べてみろ。うめえぞ」。
断ってもまた同じ結果になると思い、いただいた。
その瞬間である。
「ほれこれも食べ」。「ほれこれも食べ」と、四方からつまみが届く。
僕のテーブルの上には、歌舞伎揚やさきいか、干し豆やはたまたゆで卵などで、いっぱいとなった。
このワンカップ大関を飲み干してしまうと、また次の攻撃が来るに違いないと思い、僕は東京駅までの約二時間強をちびちび飲んだ。
しかしその事件はこの後起きた。
                         以下次号