稀代の肉焼き師

食べ歩き ,

「木下牧場の肉は、糖度が高い。イチボは酸の伸びがある。それを生かすために、一番気を使います」。そう茂野シェフは言う。
「表面はカリッと焼き上げますが、余分なカラメル香はつけない。塩もほかの肉より少なめにふります。でも一番難しいのは、他の牛と比べて、焼きあがるピークポイントが極めて狭いところなんです。だから倍緊張します」。そういって稀代の肉焼き師は、優しい目に笑みを浮かべた。
難しいと言いながら、実に嬉しそうである。
「一方ハラミは、脂が口の中に残らないように焼き上げなければいけない。鍋を傾け、少ない油にして、アロゼしながら焼き上げます」
こうしてle14eのステーキは、肉の部位に合わせた繊細なステーキは、焼き上がる。
ハラミは、脂の醍醐味と肉の香りを口の中で爆発させながら、すうっと消えていく。だからいくらでも食える。
イチボは、ああイチボは、歯が肉に吸い込まれるように入っていき、甘い汁がじっとりとこぼれ出る。
なんと品のいい、きめ細かい肉質なのだろう。
健やかに育った牛ならではの、清らかな旨みが、噛めば噛むほど溢れ出て、黙ってしまう。
肉に木下牧場の家族たちの誠実が宿っている。
だから食べている内に、心が満たされる。
喉を通り、胃袋に落ちていく喜びを感じると同時に、無くなっていく寂しさも感じるのは、そのせいだろう。
この肉を見事に焼きあげるle14eの客席はとても小さい。
でもたった5坪ほどの店に、評判をを聞きつけたフランスのトップシェフたちが次々押し寄せる。
そしてうまいっと口々に叫び、肉に染みた愛を噛みしめる。