その肉は厚切りにされることはない。
仮にあったとしても、よくよく煮込まれるだけで、焼いたり茹でたりされることはない。
なぜなら固いからである。
だから薄切りにし、鍋にするか焼かれる。
その肉は脂が魅力である。
だから厚く切った脂を食べたいと願うのだが、上記の理由で厚く切られることはない。
仮に柔らかい赤身を持つ肉があったとしても。今度は脂がみっちりついていない。
だから薄切りにし、鍋にするか焼かれる。
「触ってみたら柔らかかったので、僕も初めて厚切りにしローストしてみました」。
狩猟免許を持ち、自ら山に入って捕獲し、長年シビエを扱ってきた井上シェフは言う。
クリッ。
厚切り肉の赤身に歯を立てると、弾むような食感で歯が入っていった。
赤身肉だが、微笑みたくなるような優しい甘みがある。
筋肉質だが、その筋肉がしなやかで、歯を受け入れ、甘みを滲ませる。
そして脂である。
厚い脂に、歯がハグされる。
するとどうだろう。
先ほどまで存在感があった脂が、するりと溶けていく。
甘い、蠱惑的な香りを放ちながら消えていくのである。
ああ。たまりません。
肉も脂も甘みがあるのは、栗園で捕獲されたというこの動物が、イベリコ豚のように栗ばかりを食べていたからだろうか。
肉が柔らかいのは、子供だったからであろうか。
いや新潟の恵まれた土地、水、、栗、子供、暖冬など、すべての自然環境が重なった奇跡だったのかもしれない。
新潟「UOZEN」熊ロースのロティ。
銀杏と熊ホルモン串焼き 段四郎味噌 熊のジュのソース、ケール。栗の蜜
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