「マッキーさん、目が輝いています」。会った早々、藤田シェフから言われた。
藤田シェフは、何度も断食を経験していて、その結果断食明けは、目が輝くのだという。
常に満たされていると、内なる野生は死んでしまうのか?
空腹だと、獲物を得ないと餓死しなくてはいけないという、捕獲採集本能が目に宿るのか? 毒素が抜けて、目が澄んだのか?
目がいつもより輝いているのだという。
そして肌が、すべすべである。
小学生のとまでは言わないが、子供の頬を触った時のようにすべすべである。
63歳のおっさんの肌が、脂ぎらず、すべすべである。
みなさん。もはやすっぽんを食べて、「コラーゲンたっぷり、これで明日の朝はお肌ツルツル」と、いっている場合ではない。
そして味覚が鋭くなった。正確にいうと、嗅覚が鋭くなった。
回復食の二日間、早朝から旅をしていたので、自分で作るわけにはいかない。
飲食店に入って、野菜だけ食べたり、ポタージュや味噌汁だけ飲んで出てくるわけにいかない。
そこでコンビニで、キャベツだけ入った「キャベツすうぷ」というやつや、缶に入ったポタージュを買って、飲んでみた。
一口で、もう飲めない。
まずいのである。
しかしここはプロであるから。何故自分がまずいと思ったのか、冷静に分析してみた。
どうやら、化学調味料などは識別しつつも、まずいと思った要因にはなっていない。
人口香味料に反応したのである。
特に、「キャベツすうぷ」には、柚子の香りが添加されていて、これがダメだった。
このスープは、初めて飲んだものだから、一概には言えないかもしれない。
一度平常に戻った状態でもう一度購入して実験してみようと思うが、今までの経験値からいうと、こんなに人口香味料に拒絶反応を起こしたのははじめてであった。
人間は、美味しいさを舌で味わっていると思っているが、美味しいかまずいかを総合判断しているのは、脳である。
味覚はその判断材料の一部でしかなく、影響は15%以下だと言われている。
それよりはるかに大きな影響を及ぼしているのが嗅覚である。
しかも鼻先から嗅ぐ香りでなく、食べた後に喉から揮発して鼻の奥で感じる、後鼻香の方が大きい。
断食によって、後鼻のセンサーが敏感になった。
やがて、元に戻るだろう。
だが、一瞬だけ縄文人に戻れた気がした。
満腹だと、内なる野生は死んでしまうのか?
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