「たいしたことないじゃん」。
恐る恐る口にして、素直にそう思った。
以前、ソウルでの経験が、強烈であったがためにそう考えたらしい。
しかし甘かった。
10回噛んだあたりで、口からそっと空気を入れ、鼻から抜く。
その瞬間奴はやってきた。
「汲み取りトイレの食べ物」、「食べるシンナー遊び」が、やってきた。
日常生活では、ご遠慮したい匂いである。
人間誰しも知ってはいるが、おいしい食事とは対極にある匂いである。
アンモニア臭。しかも直接的かつ暴力的であり、人によっては目も開けられない。
さらにはアンモニアの発散が舌をしびれさせるのだから、たまらない。
口を閉じているときにいいが、少しでも口を緩めたら、匂いが口を蹂躙し、吹き荒れる。
すかさず、マッコリを飲むと中和される。
この相性ゆえ、エイ(ホンオ)とマッコリ(タクチュ)との組み合わせを「ホンタ」といって、尊重する。
尊重するのはいいが、マッコリが口の中から消えると、再び匂いとビリビリが襲来する。
「中和なんかしても意味ないぜ」とほくそ笑む。
気がつけば、匂いと痺れの奥底に甘みを探す自分がいる。
もっと匂って、痺れさせてと懇願する自分もいる。
最初は恐る恐るが、次々と箸を伸ばし、奥歯でいつまでも噛みしめている。
「味わう」。「おいしい」という感覚の根源を問われるが、既存の嫌悪に捉えられていては、その先がない。
真の「味わう」という能動的行動が、私を現実から解放する。
この料理を味わうことは、自分の内側世界の実践であり、開拓であったのだ。
ホンオフェ(発酵したエイの刺身)
韓国木浦@金メダル食堂にて。