「香味屋」のオムライスはシワ一つない。
ケチャップもなく、楚々と佇んでいる。
タンポポ型や薄焼き玉子が厚いオムライスもいいけど、ここは、玉子が主張しすぎていない。
チキンライスと一体になろうという、思いやりがある。
食べれば、マッシュルームは香りとうま味を滲ませ、鶏は優しい滋味を流し、時折グリンピースが、青々しい香りを放つ。
ケチャップの量、白ワイン、バターのバランスがよく、丸い、品徳があるオムライスである。
この味のわきまえ方は、老舗ならではの挟持だろう。
途中まで食べ進んだら、ウースターをちょいとかけてやる。
現店主宮臺さんのお父様が好んでやられていた食べ方でそうで、真似してやられた。やられてしまった。
品徳に、ちょいと下品がからんでうま味を増し、食欲をわしづかみするのである。
だからといって、かけすぎてはいけない。
ソースが出過ぎないよう、少しだけね。
ちょいとだけ、下町の味にちかづけるのさ。
楚々と佇んでいる。
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