~笑えば寿がやってくる〜
「この光景に出会ったとき、ああ日本だ、自分は日本人だって思ったんです」。
高知県大豊町ラッキー農園の酒井さんはそう言って、子供のような目を輝かせた。
標高680m、人里離れた山奥に、ひっそりと田んぼがある。
鬱蒼と木々が身を寄せ合う森の中で、開墾されたわずかな土地がある。
そのほとんどが車も横付けできず、機械も入れる事のできない、小さな棚田である。
北海道のメッキ工場で働いていたという酒井さんは、夫婦でサーフィンをして暮らす土地を探していて、この土地に引き寄せられた。
北海道では感じる事のできなかった”日本の原風景に魅せられ、農業を始めようと、思い立つ。
そして65歳以上が半数以上になったこの限界村に、移住する。
「隣りの土地は、もう90才だからもうそろそろ畑を辞めようと思ってというおばあさんから譲り受けました。先日若手の飲み会に出ろって言うので出かけたら、全員70歳でした(笑)」
おそらく300年前に開墾されたこの土地で、山頂の湧き水を使い、無農薬でトマトと生姜を作る。
トマトはアミノ酸に富み、生姜は辛味がスッキリと口の中を駆け抜け、雑味がない。
この空気と水という清涼の中では、野菜も不純を取り入れようがない。
それはまた人間も同じで、土地に住む90代の老人たちも肌がツヤツヤとして、元気だという。
苦労も多かろう。でもご主人も奥さんも、その苦労を嬉しそうに話してくれた。
酒井寿緒さん41歳、笑子さん。
お二人は、その素敵なお名前通りの人生を歩み始めている。