高知の山奥に

日記 ,

高知の山奥に、その男はいる。
絵を描き、唄を作り、ドブロを弾き、歌う。
見栄っ張りで、格好づけで、涙もろく、勝手で、わがままで、頑固で、優しい、男の性根を歌う。
日本で知る人は少ないが、BBCで生演奏をした男であり、世界中の街角でブルースを歌ってきた。
20の頃、スリーピー・ジョン・エスティスのジャケットに痺れ、こんなおじいちゃんになりたいと思い、始めたブルースを、いま日本語で歌う。
昨夜生で初めて聞き、聞いていて恥ずかしくなった。
男としての本性を脱ぎ捨てた唄が、人生の無常を突きつけ、どこかでカッコをつけていた自分に気づかされる。
目の前の同い年の男が、とてつもなく格好良く、セクシーで、こんな男になりたいと、今の自分との大きな距離を感じる。
オープンチューニング特有の重厚な音色に、太い錆声が響く。
腹の底をつかむ歌声は、背をドンと叩き、精神の背骨をキリリと正す。
そしてなにより、歌の底に人生の憂いがあって、苦く切ない思いが滲む。
藤島晃一はブルースマンであり、絵描きでもある。
その一見ユーモラスな絵は、人生なんてこんなもんさと、楽天的な皮肉をくみながら、やはり奥底には静かに佇む悲哀がいて、じっとこちらをにらんでいる。